鎌倉のアジサイの見頃が終わる頃、本格的な夏の到来。夏といえばサルスベリ。他の花が少なくなる真夏にフリルがついたふんわりした小さな塊の赤、白、ピンク等の花を咲かせ9月末頃まで楽しませてくれる。
サルスベリはミソハギ科、サルスベリ属の落葉高木、中国南部が原産、日本には江戸の頃伝わったといわれている。
漢名では百日紅(ひゃくじつこう)。中国唐の時代、100日ほど紅色の花が咲き続けることから命名された。和名では猿滑(さるすべり)。すべすべした木に猿が登っても滑ってしまうとの事。(実際、猿は滑ることがないらしい)
鎌倉のサルスベリの名所は極楽寺、本覚寺、本興寺、補陀洛寺、長谷寺などだが、殆どのお寺に植樹されている。又、報国寺から旧華頂宮邸に行く道筋の民家、梶原ロータリー付近のサルスベリも素晴らしい。
お寺にサルスベリが多いのは何故だろう? それは仏教の三大聖樹(無憂樹・印度菩提樹・沙羅双樹)に由来するという。無憂樹は釈迦の母、マーヤ夫人がお産の為に里帰りの途中、ルンビニーでこの花を見て枝を折ろうとした時に右脇から釈迦が生まれたという伝説がある木だ。日本では育たないので花姿が似ているサルスベリを無憂樹に代用をしたようだ。
今回の散策は真夏の参拝者への暑さ対策をしっかりとしている長谷寺を参拝しよう!
江ノ電長谷駅を降り、海岸の反対側、大仏方面に向かい5分ほど歩く。最初の信号を左に曲がると突き当りが長谷寺だ。長谷寺の正式名称は「海光山慈光院長谷寺」。奈良時代、天平8年(736)の創建、浄土宗のお寺で徳道上人が開山。坂東三十三所観音霊場の第四番札所に数えられている。長谷寺の縁起によると徳道上人は養老5年(721)、稽(けい)主(しゅ)勲(くん)と稽(けい)文会(もんえ)に1本の楠から二体の十一面観音像を造らせ、一体は奈良長谷寺に残し、もう一体は衆生済度を祈願し、海中に奉じた。
15年を経て、横須賀長井の洋上に忽然と顕われ、遷座した処が当地であるという。
大きなお堂の中に9.18mの本尊、十一面観音菩薩が燦然と光輝き、私達を微笑で迎えてくださる。
右手に錫(しゃく)杖(じょう)(お地蔵様の意)、左手に水瓶(すいびょう)(観音様の意)を持つ大磐石という台座に立つ、お地蔵様と観音様を兼ね備えた仏が長谷寺式十一面観世音菩薩だ。小泉八雲は40歳の時、ニューヨークを発ち、明治23年4月4日、横浜港に到着、数日後に鎌倉江の島を観光した。長谷寺にもお参りし、八雲も観音様を「無限の優しさをたたえた金色の観音様の慈顔」と記している。(『日本の面影』より)
長谷寺では「極楽浄土の世界を再現したい」と仰せのように、いつお参りしても丹精込めた色とりどりの季節の花がお迎えしてくれる。お寺は仏法を具現する「来る者は拒まず、去る者は追わず」場所。長谷寺はそれを実現している。盛夏ではミストシャワーの設置等様々な工夫をし、参拝者を大事にしてくれる有難いお寺だ。
≪長谷寺のサルスベリは境内にもあるが山門脇のタブの木周辺から観賞できる。その美しさは写真よりさらに感嘆な声を挙げる程に麗しい≫
≪鎌倉歴史愛好家 田嶋早苗≫
